東京地方裁判所 昭和46年(ワ)3738号 判決 1976年3月29日
原告(反訴被告、以下、原告という)
更生会社株式会社パシフイツクパーク・ジヤパン管財人
上野久徳
右訴訟代理人
木戸口久義
外一二名
被告(反訴原告、以下、被告という)
京王重機整備株式会社
右代表者
小山豊治
右訴訟代理人
奥野利一
外二名
主文
一 原告の本訴請求をいずれも棄却する。
二 別紙物件目録(三)記載の各スキーリフト及び付属設備につき、被告が所有権を有することを確認する。
三 原告は被告に対し、別紙物件目録(一)及び(二)記載の各土地を明渡し、かつ、同目録(三)記載の各スキーリフト及び付属設備を引渡せ。
四 被告のその余の反訴請求を棄却する。
五 訴訟費用は、本訴、反訴を通じてこれは五分し その一を被告の負担とし、その四を原告の負担とする。
六 この判決第三項は、被告において金四、〇〇〇万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一、原告
(一) 本訴について。
1 別紙物件目録(一)及び(二)記載の各土地につき、更生会社株式会社パシフイツクパーク・ジヤパンが賃借権を有することを確認する。
2 別紙物件目録(三)記載の各スキーリフト及び付属設備につき、同更生会社が所有権を有することを確認する。
3 被告は別紙物件目録(一)及び(二)記載の各土地内に入つたり、同目録(三)記載の各スキーリフト及び付属設備についての原告の管理、運営を実力をもつて妨害してはならない。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
(二) 反訴について。
1 被告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
(一) 本訴について。
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(二) 反訴について。
1 別紙物件目録(一)及び(二)記載の各土地につき、被告が賃借権を有することは確認する。
2 別紙物件目録(三)記載の各スキーリフト及び付属設備につき、被告が所有権を有することを確認する。
3 原告は被告に対し、別紙物件目録(一)及び(二)記載の各土地を明渡し、かつ、同目録(三)記載の各スキーリフト及び付属設備を引渡せ。
4 訴訟費用は原告の負担とする。
5 第三項につき、仮執行の宣言。
第二 当事者の主張
(本訴について)
一、請求原因
(一) 株式会社パシフイツクパーク・ジヤパン(旧商号、日本観光サービス株式会社、日本観興開発株式会社、以下、更生会社という)は昭和三二年ころ別紙物件目録(二)記載の土地(以下、本件(二)の土地という)をその入会権者である添名、原、滝の又の三部落から賃借し、さらに昭和三六年三月二八日同目録(一)記載の土地(以下、本件(一)の土地という)をその所有者である湯沢町から賃借した。
(二) 更生会社は昭和三二年一二月から昭和四一年八月までの間に別紙図面の位置に別紙物件目録(三)記載の各スキーリフト及び付属設備(以下、本件リフトという)を逐次建設し、右賃借土地及びリフトを利用して索道事業を営んでいたが、昭和四五年七月二五日更生会社に対し、会社更生法にもとづく更生手続開始の申立がなされ(東京地方裁判所昭和四五年(ミ)第一一号)、同月二八日同裁判所において本件(一)及び(二)の土地の賃借権並びに本件リフトの所有権を含む更生会社の財産に対する一切の処分行為の禁止等を命ずる保全処分決定並びに保全管理人による管理決定がなされ、原告が保全管理人に選任された。
(三) そこで、原告は直ちに財産管理の業務に着手し、昭和四五年七月二九日本件(一)及び(二)の土地並びに本件リフトを原告の直接占有に移した。
ところが、被告は昭和四五年九月一六日被告会社従業員約七名をトラツク、ジープ等に分乗させ、本件(一)及び(二)の土地内に侵入し、本件第一ないし第三リフトとそれに付随する運転室、従業員詰所を実力をもつて不法に占拠し、更生会社従業員による本件リフトの整備、運転作業を妨害するに至つた。
(四) その後昭和四五年九月二四日更生会社に対し更生開始決定がなされ、原告が管財人に選任されたので、原告は被告を被申請人として、東京地方裁判所に対し、被告による右占有妨害の排除と本件(一)及び(二)の土地並びに本件リフト内への立入禁止を求めて仮処分命令の申請をなし(同庁同年(ヨ)第七、九一九号)、同年一〇月一四日右仮処分決定を得て、翌一五日その執行をなし、被告の右妨害を排除して現在に至つている。
(五) よつて、原告は、本件(一)及び(二)の土地につき更生会社が賃借権を有すること並びに本件リフトにつき更生会社が所有権は有することの確認を求めるとともに、被告に対し、右賃借権及び所有権にもとづき、あるいは右各物件の占有権にもとづき、被告による右各物件の占有妨害の予防を求める。
二、請求原因に対する認否
(一) 請求原因(一)のうち、更生会社が原告主張の日に湯沢町から本件(一)の土地を賃借したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(二) 同(二)の事実は認める。
(三) 同(三)の事実は否認する。後記「抗弁」記載のとおり、被告は昭和四四年六月三日更生会社から、占有改定により本件(一)及び(二)の土地並びに本件リフトの引渡を受け、さらに昭和四五年七月二一日同会社から右各物件の現実の引渡を受け、適法にその占有を継続しているものである。
(四) 同(四)の事実は認める。
三、抗弁
被告は昭和四四年六月三日更生会社に対し、昭和四五年六月二日を弁済期日とし、利息は貸付後昭和四四年一一月三〇日まで日歩二銭八厘、その後弁済期日まで日歩二銭九厘と定めて、金二億円を貸渡すことを約し、即日内金一億八、〇〇〇万円から約定利息を控除した金一億六、一二七万二、八〇〇円を、同年七月一日残金二、〇〇〇万円から約定利息を控除した金一、八〇七万六、〇〇〇円を交付した。
そして、被告は昭和四四年六月三日右債権を担保するため、本件(一)及び(二)の土地の賃借権並びに本件リフトの所有権の譲渡を受け、更生会社が前記弁済期日までに債務を弁済したときは、右土地の賃借権及びリフトの所有権の返還を受けることができるが、弁済がなされない場合には、被告はこれが返還債務を免れることとし(この契約を、以下単に本件担保契約という)、即日占有改定により右土地及びリフトの引渡を受けるとともに、弁済期日までの間更生会社にこれを無償で使用させることとした。
しかるに、更生会社は右弁済期日までに債務の弁済をしないので、同日限り右物件の返還債務は消滅し、本件(一)及び(二)の土地の賃借権並びに本件リフトの所有権は確定的に被告に帰属し、右土地及びリフトの使用貸借関係も終了した。その後、被告は昭和四五年七月二一日更生会社から右土地とリフトにつき現実の引渡を受けたので、同日限り更生会社はその占有権を喪失した。
四、抗弁に対する認否
抗弁事実のうち、本件担保契約の目的物の範囲並びに被告が更生会社から右目的物の現実の引渡を受けたとの事実は否認し、その余の事実は認める。後記「再抗弁(一)」記載のとおり、本件担保契約の目的物の中に本件(二)の土地の賃借権は含まれていない。また、後記「再抗弁(八)」記載のとおり、被告に対し本件担保契約の目的物が現実に引渡されたことはない。
五、再抗弁
(一) 本件担保契約は本件リフトの営業権の取得を目的とするものであるが、右契約においては、本件リフトの所有権と更生会社が湯沢町より賃借した二〇万坪の土地(本件(一)の土地)の賃借権のみが担保の目的物とされており、更生会社が添名、原、滝の又の三部落から賃借した本件第一ないし第三リフトの敷地(本件(二)の土地)は、担保の目的物から除外されている。また、国有地、私有地等から成る本件第五及び第八リフトの敷地は、当初から右契約の対象外とされている。さらに、その余のリフトの敷地である本件(一)の土地については、添名、原、滝の又の三部落が入会権を有しているから、右土地を担保に供するためには右入会権者の承諾が必要であるが、本件においては右承諾がない。
従つて、仮りに被告が本件リフトの所有権を取得したとしても、これをその敷地上に適法に所有することができないのであるから、本件担保契約は、契約をした目的を達成することができないもので無効である。
(二) 湯沢町町有貸付地条例(昭和三〇年一二月二七日条例第四四号)一〇条二項には、「借受人は如何なる場合でも借受地を質入れ又は担保に提供することはできない」と規定されている。右規定は、同町からの借受地を担保に供することを絶対的に禁止する趣旨であるから、本件担保契約は右条例の条項に違反し無効である。
仮りに、右条例の条項に違反することにより直ちに、本件担保契約が無効となるものではないとしても、前記条項が存在する以上、被告はたとえ湯沢町長または町議会の承諾を得たとしても、本件(一)の土地の賃借権を取得することができないから、本件担保契約は結局契約をした目的を達成することができないもので無効である。
(三) 更生会社は昭和三二年七月二日本店を新潟県南魚沼郡湯沢町において設立され、同町大字土樽字巾下地籍の通称岩原にスキーロツジ及びリフトを所有し、これを利用して岩原スキー場を経営していたが、その後各種の事業を手がけ、昭和三七年一二月には神奈川県茅ケ崎市の同会社所有地を利用して、ドライブイン、レストラン及びホテルの建設に着手し、昭和四三年一二月これを完成した。そして、本件担保契約当時の同会社の根幹となる営業は、右スキー場経営とホテル経営であり、その営業収益の全営業収益に占める場合は、ホテル部門約六五パーセント、スキー場部門約一五パーセントであり、双方合わせて約八〇パーセントを占めていた。
従つて、本件リフトの営業は更生会社の営業の重要な一部を構成しているものであるところ、本件担保契約においては、右リフトの所有権及びその敷地二〇万坪の賃借権が譲渡の対象とされているのであるから、担保権の実行によつて右物件が被告に帰属するとすれば、更生会社はその営業の重要な一部である本件リフトの営業権全部を譲渡したことになる。このような契約を締結するには株主総会の特別決議が必要であるところ、更生会社は本件担保契約を締結するにつき右の決議を経ていないのであるから、右契約は無効である。
(四) スキーリフトによる営業をなすものからリフト所有権の譲渡を受けたものが、これを利用してリフト事業を開始するためには、陸運局の乙種索道事業譲渡許可が必要である。そして、本件担保契約においては、右許可が得られないことが解除条件とされていたところ、被告は昭和五四年七月二五日更生会社と被告を申請人として、新潟陸運局に対し、右許可申請書を提出したが、更生会社の管財人である原告が同年一〇月二日右申請の取下書を提出したため、右申請は形式的要件を欠くに至り、許可を得ることは不可能となつた。従つて、解除条件の成就により、本件担保契約はその効力を失つた。
(五) 本件担保契約においては、本件(一)の土地の賃借権の譲渡につき、賃貸人である湯沢町長の承諾を得られないことが解除条件とされていたところ、同町長は原告及び被告に対し、昭和四五年八月一四日付「土地賃借権譲渡承認申請についての回答」と題する書面により、右土地の賃借権の譲渡を承認しない旨回答してきたので、右解除条件は成就し、本件担保契約はその効力を失つた。
(六) 本件担保契約はいわゆる清算型・請求帰属型の性質を有する担保契約である。このことは次の事実により明らかである。
1 更生会社は昭和三二年に岩原スキー場におけるリフトの営業権を取得し、一億円余りを投じて本件リフトを設置し、さらに昭和三六年三月二八日六〇〇万円の前払賃料を支払つて本件(一)の土地の賃借権を取得した。このようにして取得した本件リフトは営業成績がきわめて優秀で、年間の収益(アラ利)は四、〇〇〇万円にのぼり、その売上は年々増加している。普通スキー場に投資した場合、投資額を一〇年で回収するのが通例とされているが、仮りに六、七年で回収するとしても、右によれば収益性からみた本件リフトの価値は二億五、〇〇〇万円を下らない。
右土地賃借権、リフトの価額等を合算し、さらに営業権を加味して考えると本件担保物件は優に四億円以上の価値を有するものであつて、僅々二億円程度の代金で売買されたり、或は右額程度の債務の弁済のためにその所有権を移転されたりする筋合のものではない。
2 本件担保契約においては、担保の目的となつた物件の占有を担保権設定者である更生会社のもとに留めているが、このように目的物を設定者のもとに留める場合は、他に特段の事情がない限り清算型・請求帰属型の性質を有する担保契約と解される。
3 被告は、本件担保契約の目的物である本件(一)の土地の賃借権と本件リフトの価額の合計が被担保債権の元利合計に不足する場合に備えて、右の他に神奈川県横須賀市所在の更生会社所有地に抵当権を設定しているのであるが、この事実から推すと右目的物の価額が被担保債権の元利合計額を上回るときには、これを更生会社に返還する趣旨であつたと考えるのが、当事者間の公平を考えた妥当な解釈である。
4 本件担保契約の契約書には、本件(一)の土地の範囲につき「岩原二〇万坪土地賃借権」と記載されているにすぎないが、これではその範囲を特定するためには十分とはいえない。ところで、本件担保契約が、被告主張のように流担保型のものであるとすれば、当事者は契約の締結にあたり、担保を実行する場合に備えて、土地の範囲を詳細に特定し、かつ、その承継手続までも規定するのが通例であると考えられるところ、本件契約に何らそのような定めのないことは、本件において当事者は、土地の特定や承継手続は、清算の段階でこれをすれば十分であると判断したことを示すものである。
このように、本件担保契約は清算型・請求帰属型のものであるのに被告は弁済期日である昭和四五年六月二日以降、本件担保契約の目的物により弁済を受ける旨の意思表示並びに清算手続をしていないのであるから、本件担保権はいまだ実行されておらず、被告は他の更生担保権者と同様に、更生債権の届出をなし、更生手続によつてのみ権利行使をなしうるにすぎない。
(七) 仮りに右主張が認められないとしても、本件担保契約は、更生会社が更生債権者、更生担保権者または更生会社の株主を害することを知つてなした行為である。すなわち、本件担保契約の目的物の価額は、前記のとおり四億円を上回るものであるのに、更生会社の代表取締役岩倉具憲はこれを実質一億八、〇〇〇万円の借入金の担保に供したのであるから、これは明らかに不当な担保供与であり、いかに資金繰りに窮していたとはいえ、岩倉が右担保契約の締結により更生債権者、更生担保権者または更生会社の株主を害することになるのを承知していたことは明らかである。そこで、原告は昭和四六年四月二七日の本件口頭弁論期日において、会社更生法七八条一項一号にもとづき、右担保契約を否認する旨の意思表示をした。
(八) 仮りに被告が更生会社から本件担保契約の目的物を有効に取得したとしても、管財人及び保全管理人は更生会社との関係では第三者の地位にあるから、被告が原告に対して右権利の取得を主張するためには、対抗要件を具備していることが必要である。そして、譲渡担保に供された物件の取得につき対抗要件を具備したというためには、被担保債権の弁済期日までは占有改定でも足りるが、弁済期日経過後は現実の引渡を受けることを要するものと解すべきである。
ところで、本件担保契約の目的物はリフトの所有地及びその敷地の賃借権であるから 右土地及びリフトにつき現実の引渡を受けたというためには、現実的な事実行為、すなわち広大な敷地上の施設に対し、常時監守、管理のための人員を配置すること、施設の鍵の交付を受けること、リフトの運転許可証等の記録類の交付を受け、諸施設についての申送りを受けること等が必要である。しかるに、本件においては、右施設の監守、管理等は専ら更生会社がこれをなしたのに対し、被告は昭和四五年七月二一日本件(一)及び(二)の土地内に侵入して、「本リフトは当社所有でありますから何人も無断で立ち入り又は操作することを固く禁止します」と表示した貼札をなし、同年九月一六日本件第一ないし第三リフトを占拠し、更生会社従業員が右リフトの整備、運転作業をするのを妨害したにすぎないのであるから、到底被告が現実の引渡を受けたということはできず、従つて、被告は本件担保契約の目的物の権利の取得を原告に対抗することができない。
(九) 仮りに被告が昭和四五年七月二一日本件リフトにつき現実の引渡を受けたとすれば、原告は会社更生法八〇条一項にもとづき、右対抗要件を否認する。すなわち、更生会社は昭和四四年当時すでに過大な借金をかかえ、その高金利の支払のため赤字経営を余儀なくされていたが、昭和四五年四月以後は全く支払不能の状態に陥つていた。ところで、会社更生法八〇条一項にいう「支払の停止」とは、支払不能なことを外部に表示する債務者の行為ないし挙動をいうものであるところ、更生会社は同年四月以降六月までの三か月間に延べ一二〇名もの債権者に対し、弁済期日の延期や手形書換の依頼等をしていたのであるから、これは支払不能の状態を外部に表示した行為ということができる。そのうえ、同年七月一七日には訴外東京住宅生活協同組合の倒産が新聞に大々的に報道され、同生協との間で巨額の融通手形を交換していた更生会社が即時連鎖倒産するに至ることは、更生会社の債権者にとつて当然予測されるところであつた。従つて、更生会社は昭和四五年七月初旬あるいは遅くとも同月一七日までには確定的に支払停止の状態にあつたものである。
しかるに、被告は同月二一日右事実を知りつつ本件担保契約の目的物の現実の引渡を受け、原告に対する対抗要件を具備するに至つたものである。そこで、原告は昭和四六年四月二七日の本件口頭弁論期日において、会社更正法八〇条一項にもとづき、右対抗要件を否認する旨の意思表示をした。
六、再抗弁に承する認否<省略>
七、再々抗弁
(一) 仮りに原告がなした申請の取下によつて再抗弁(四)の解除条件が成就したとしても、本件担保契約によれば、更生会社は被告に対し、本件リフトの営業権譲渡許可申請に協力すべき義務を負つているのであるから、更生会社の管財人である原告も当然この義務を負うものと解すべきところ、これに違反してほしいままになされた右取下は、信義則ないし民法一三〇条の法意に照らし無効というべきである。
(二) 湯沢町は昭和四五年七月二一日被告と更生会社連名の本件(一)及び(二)の土地賃借権譲渡承認申請を受理したので、これを議会に諮つて承認する方針でいたところ、原告が同年八月一日付内容証明郵便をもつて、右承認をしないよう要請したため、同町は紛争の渦中に巻込まれることを恐れて予定の方針を取りやめ、同月一四日同町役場に出頭した更生会社代表取締役岩倉の求めにより、同人が予め用意して持参した賃借権譲渡不承諾の回答書に町長の記名、押印をなしたものである。従つて、仮りに再抗弁(五)の解除条件の成就が認められるとしても、民法一三〇条の法意に照らし、原告は右条件の成就を主張することができない。
(三) 仮りに再抗弁(七)の事実が認められるとしても、被告は本件契約当時更生会社の内情について全く関知しておらず、従つて右契約が更生会社債権者らを害するものであることは知らなかつたものである。
八、再々抗弁に対する認否<省略>
(反訴について)
一、請求原因
(一) 被告は本訴における「抗弁」記載のとおり、昭和四五年六月二日の経過とともに、本件(一)及び(二)の土地の賃借権並びに本件リフトの所有権を確定的に取得し、これに先立つ昭和四四年六月三日占有改定により右土地及びリフトの引渡を受け、さらに昭和四五年七月二一日現実の引渡を受けて、その占有を継続しているものである。
(二) しかるに、原告は昭和四五年七月二八日更生会社の保全管理人に選任されるや、自己が前記土地及びリフトに対する賃借権、所有権あるいは占有権を取得したとして主張して、被告の右占有を妨害し、更に原告は同年九月二四日管財人に選任されたが、同年一〇月一四日被告に対し、右土地及びリフトについての占有妨害の排除と、立入の禁止を命ずる仮処分決定を得て、同月一五日その執行をなしたため、被告は右土地及びリフトからの立退きを余儀なくされた。原告はこの機に乗じて右土地及びリフトの占有を侵奪し、爾後本件リフトによる営業を継続している。
(三) よつて、被告は原告に対し、占有権にもとづき、あるいは賃借権及び所有権にもとづき、本件土地の明渡及びリフトの引渡を求めるとともに、本件(一)及び(二)の土地につき被告が賃借権を有すること並びに本件リフトにつき被告が所有権を有することの確認を求める。
二、請求原因に対する認否
(一) 請求原因(一)に対する認否は、本訴における「抗弁に承する認否」記載のとおりである。
(二) 同(二)のうち、原告が被告主張の日に保全管財人及び管財人に選任されたこと、原告が被告主張の仮処分決定を得てその執行をなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。
三、抗弁、抗弁に対する認否、再抗弁及び再抗弁に対する認否は、それぞれ本訴における「再抗弁」、「再抗弁に対する認否」、「再々抗弁」及び「再々抗弁に対する認否」記載のとおりである。
第三 証拠<省略>
理由
第一本訴について。
一 賃借権及び所有権にもとづく請求について。
(一) 更生会社が昭和三六年三月二八日本件(一)の土地をその所有者である湯沢町から賃借したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、更生会社が昭和三二年ころ本件(二)の土地をその入会権者である添名、原、滝の又の三部落から賃借したことを認めることができる。
(二) そして更生会社が昭和三二年一二月から昭和四一年八月までの間に別紙図面の位置に本件リフトを逐次建設し、その所有権を取得したこと、被告が昭和四四年年六月三日更生会社に対し、昭和四五年六月二日を弁済期日とし、利息は貸付後昭和四四年一一月三〇日まで日歩二銭八厘、その後弁済期まで日歩二銭九厘と定めて、金二億円を貸渡すことを約し、即日内金一億八、〇〇〇万円から約定利息を控除した金一億六、一二七万二、八〇〇円を、同年七月一日残金二、〇〇〇万円から約定利息を控除した金一、八〇七万六、〇〇〇円を交付し、右債権を担保するため、同年六月三日本件(一)の土地の賃借権及び本件リフトの所有権の譲渡を受け、更生会社が期限までに右債務を弁済したときは右土地の賃借権及びリフトの所有権を返還するが、期限までに弁済がなされないときは被告はこれが返還義務を免れることとし、同日占有改定により右土地及びリフトの引渡を受けるとともに、弁済期日までの間更生会社にこれらを無償で使用させることとしたことは当事者間に争いがない。
(三) ところで、本件(二)の土地の賃借権も本件担保契約の目的に含まれていたかどうかについて争いがあるので、判断する。
<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
1 更生会社は昭和四四年当時、前年に完成した神奈川県茅ケ崎市所在のホテル(ドライブイン、レストランを含む)の建設代金の未払分(約一〇億円)の支払や市中金融業者からの高利の借入金(約八億円)の返済のため、営業資金借入の必要に迫られていたが、経営状態の悪化によりすでに金融機関の信用を失つていたため、同会社代表取締役岩倉具憲は昭和四四年五月右資金調達のため、一年前に赤倉チヤンピオンスキー場(新潟県中頸城郡妙高高原町赤倉所在、以下、赤倉スキー場という)のリフト施設等を売渡したことのある被告に対し、本件リフトを担保として金員の借入を申込んだ。
2 ところで、本件リフト敷地(滑走用地を含む)の主要部分は湯沢町から賃借した本件(一)の土地であるが、他に国有地、近隣部落の入会地、私有地を賃借した部分や更生会社の所有地なども入り組んで、権利関係が錯雑しており、しかもその面積は二〇万坪をこえる広大なものであるため、更生会社には右権利関係を確定するだけの十分な資料が整つておらず、正確な権利関係を調査、確定するにはかなりの日子と労力が必要であつたが、当時更生会社には、右権利関係を確定した後借人をするだけの時間的、労力的余裕はなかつた。
3 一方被告は、岩原スキー場と同じ上越地区内にある石打、関温泉の各スキー場においてリフト事業を営んでおり、さらに右述のとおり、更生会社から赤倉スキー場を買受けたいきさつもあつて、岩原スキー場におけるリフト設備の状況やリフト敷地のおおよその範囲を了解しており、リフトの営業権やその敷地の賃借権の譲渡のための手続にも通じていた。
4 そこで、更生会社と被告は、本件リフト敷地の権利関係の詳細については後日正確に確定することとして、本件リフトの所有権及びその敷地の賃借権全部を担保に供することに合意し、その契約書中の目的物件記載欄に右リフト敷地(滑走用地を含む)を総称する意味で、「湯沢町有地岩原二〇万坪土地賃借権」と表示した。
5 本件担保契約においては、更生会社が岩原スキー場に所有していたロツヂの敷地(付属駐車場を含む)一万坪は目的から除外する旨明記されているが、この敷地は本件(二)の土地と同じく添名、原、滝の又の三部落から賃借したものである。してみると、前記の「湯沢町有地岩原二〇万坪土地賃借権」なる表示が、湯沢町から賃借した本件(一)の土地のみを指すとすれば、右ロツヂの敷地は当然本件担保契約の目的物から除外されていることになるにもかかわらず、本件契約書において右のとおり、特にこの敷地のみを担保契約の目的物から除外する旨をわざわざ付記したことは、右の表示が本件リフト敷地全部を包含するものであることを示すものというべきである。
右の認定判断によれば、本件担保契約においては、本件(一)の土地の賃借権とともに、本件第一ないし第三リフトの敷地である本件(二)の土地の賃借権も担保の目的とされたというべきである。
(四) そして更生会社が約定の弁済期日に(二)の債務の弁済をしなかつたことは当事者間に争いがないから、被告は弁済期日の経過とともに本件担保契約の目的物の返還義務を免れ、本件(一)及び(二)の土地の賃借権並びに本件リフトの所有権を確定的に取得したものである。
(五) そこで、再抗弁について順次判断する。
1 まず、再抗弁(一)について。
原告は、本件担保契約においては本件リフトの所有権と本件(一)の土地の賃借権のみが担保の目的とされており、本件第一ないし第三リフトの敷地(本件(二)の土地)並びに本件第五、第八リフトの敷地は担保の目的物から除外されていたと主張するが、前記(三)認定の事実によれば右主張事実の認められないことは明らかである。
次に原告は、添名、原、滝の又の三部落が本件(一)の土地に対する入会権を有しているので、右土地を担保に供するためには右入会権者の承諾が必要であるところ、本件においては右承諾がないから、被告が右土地上に適法に本件リフトを所有することはできないと主張するが、右土地を担保に供するについて入会権者の承諾がないというだけで直ちに、被告が右土地上に本件リフトを適法に所有しえなくなるものではないうえに、本件においては入会権者が承諾を拒絶したこと等についての主張、立証もないから、いずれにしてもこの主張は理由がない。
従つて、再抗弁(一)は更に立入つて判断するまでもなく理由がない。
2 同(二)について。
湯沢町町有貸付地条例(昭和三〇年一二月二七日条例第四四号、なお、この条例の存在とその内容は被告において明らかに争わないところである。)一〇条二項に、「借受人は如何なる場合でも借受地を質入れ又は担保に提供することはできない」と規定されているが、同条項の趣旨とするところは、町有貸付地の借受人が町に無断でこれを担保に供することにより、町が不測の損害を被ることを防止することにあると解される。そして、借受人が同条項に違反して借受地を担保に供したときは、町長は右貸付を取消すことができることとされている(同条例一一条二号)。してみれば、同条例一〇条二項に違反して借受地が担保に供された場合にも、同条例一一条二号により同町から更生会社に対する借受地の賃貸借契約が解除されることのありうるは格別、更生会社と被告との間の右担保契約が直ちに無効となるものではないと解するのが相当である。そして、右認定の同条例一〇条二項の趣旨に、町長、町議会の承認を得ること等を条件として貸付地の権利の譲渡性を承認する同条例九条一項二号、一〇条一項の規定がおかれていることを合わせ考えれば、本件担保契約は、原告主張のように、その目的を達成することができないものということはできない。従つて、再抗弁(二)は理由がない。
3 同(三)について。
商法二四五条一項一号によつて特別決議を経ることを必要とする営業の譲渡とは、一定の営業目的のため組識化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡することをいい、単なる営業用財産の譲渡は、それが重要とみられるものであつても、右にいう営業の譲渡には該らないものと解するのが相当である。
これを本件についてみるのに、<証拠>によれば、本件担保契約においては、本件リフトの所有権とその敷地の賃借権が担保の目的とされ、その譲渡についての取決めがなされていることが認められるが、右のリフト及び賃借権と有機的一体をなし、営業を構成する事実関係の譲渡、すなわち本件リフト事業の継続的運営に必要な帳簿書類、従業員等の引継、右事業の運営によつて生じた債権債務の引継、リフト建設等についての技術及び取引関係の引継等につき特段の取決めがなされたことを認めるに足りる的確な証拠はない。従つて、本件担保契約は、原告主張のように、更生会社の営業の重要な一部の譲渡を目的とするものであるということはできないから、再抗弁(三)は、更に立入つて判断するまでもなく理由がない。
4 同(四)について。
原告は、陸運局の乙種索道事業譲渡許可を得られないことが本件担保契約の解除条件とされていたところ、被告が昭和四五年七月二五日更生会社と被告を申請人として、新潟陸運局に右許可申請書を提出したのに対し、原告が同年一〇月二日右申請の取下書を提出したため、右許可を得ることは不可能となり、右解除条件は成就するに至つたと主張するが、原告が自ら条件成就の機会を奪いながら、これをもつて解除条件の成就と主張することの当否はともかく、右許可申請が取下げられたというだけでは陸運局の譲渡許可を得ることが不可能になつたということはできず、他に右許可申請に対して不許可処分がなされたなど、特段の主張、立証のない本件においては、この主張は更にせんさくするまでもなく理由がないものといわざるをえない。再抗弁(四)は理由がない。
5 同(五)について。
原告は、本件(一)の土地の賃借権の譲渡につき賃貸人である湯沢町長の承諾を得られないことが本件担保契約の解除条件とされていたと主張するが、このような条件の付されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。従つて、この再抗弁は理由がない。
6 同(六)について。
本件担保契約が、原告主張のようないわゆる清算型・請求帰属型のものであるかどうかを判断する前提として、まず、本件担保契約当時における本件賃借権及びリフトの価額について検討する。
ところで本件においては、直接これを確定すべき的確な資料がないので、各種の試算の結果に基づいて推定するほかないものである。一般に物の価格は次の三つの方法により試算することが可能であるとされる。すなわち、その一は、これを取得するために要する費用に着目してその価格を評価する方法(原価法)、その二は、物の生み出す収益に着目してその価格を評価する方法(収益法)、その三は、物の市場性に着目してその価格を評価する方法(取引事例比較法)であるが、物の正常取引価額は、このようにして求めた試算価格を総合勘案して判断するのが相当である。ところで、本件担保契約の目的は、本件リフトの所有権とその敷地の賃借権とであるが、右リフト敷地の賃借権は、これを利用して高い収益を上げることができるものであり、しかも当該土地の気候、地形、地域性、リフトの設備投資の規模の大きさ等からみて、通常長期間にわたつて更新、継続されることが期待されるものであるから、その取得価格はかなり高額にのぼると考えられるが、本件においてはこれを算定するための十分な証拠がないから、原価法にもとづいて本件担保の目的物の試算価格を求めるのは相当でない。そこで以下、収益法及び取引事例比較法によつて本件担保の目的物の試算価格を求めてみる。
(1) 収益法による試算価格
<証拠>によれば、更正会社の確定決算報告書にもとづく岩原スキー場(本件リフト、ロツジ等の営業全部を含む)の減価償却後の営業利益は、一二期(自昭和四二年八月一日至昭和四三年七月三一日)三、五九四万八、九九三円、一三期(自昭和四三年八月一日至昭和四四年七月三一日)三、八六四万一、六七二円であると認められる。ところで、右各証拠によれば、同期における本件リフトの営業収益の、岩原スキー場全体の営業収益に占める割合は、一二期39.4パーセント、一三期40.3パーセントであり、本件リフトの営業に要する経費がロツヂその他の営業に要する経費に比して特に逕庭のあることを認めるに足りる証拠はないから、本件リフトの営業利益の、岩原スキー場全体の営業利益に対する割合は、右収益の割合と同程度と推定するのが相当である。従つて、右確定決算報告書にもとづく本件リフトの減価償却後の営業利益は、一二期一、四一六万三、九〇三円、一三期一、五五七万二、五九三円であると認められる。
次に<証拠>によれば、新潟陸運局に対する更生会社の索道事業営業報告書にもとづく本件リフトの一三期の減価償却後営業利益は一、六〇一万九、二二〇円であり、本件リフトと赤倉スキー場のリフトの一二期の減価償却後営業利益は合計二、一〇六万九、七五〇円であると認められる。そして、右甲第六八号証と前顕甲第六七号証によれば、一二期における本件リフトの営業収益の、右両リフトの営業収益中に占める割合は、73.2パーセントであるから、右報告書にもとづく本件リフトの減価償却後の営業利益は、一二期一、五四二万三、〇五七円(2,106万9,750×0.732)、一三期一、六〇一万九 二二〇円であると認められる。
右各営業利益は本件担保契約の締結される直前二年間の営業実績より求められたものであり、各数値の間に著しいばらつきはないから、本件担保の目的物の収益価格の算定にあたつては、これらを平均した数値をもつて本件リフトの年間利益とするのが相当である。従つて、本件担保契約当時における本件リフトの減価償却後の営業利益は年額一、五二九万四、六九三円であると認められる。
ところで、リフト敷地の賃貸借契約は前記のとおり、通常賃貸借期間満了後も更新、継続されることが期待されるものであり、本件においても右更新が拒絶されることを伺わせる証拠はないから、その賃貸借契約はかなり長期間にわたつて継続されるものと推定される。そして、証人大久保雅生の証言によると本件リフトの平均耐用年数は一二年であると認められるが、その敷地の賃貸借契約が継続される限り、右耐用年数経過後も、事業者は減価償却積立金をもつてリフトを建換えることにより、耐用年数経過前と同一の収益を維持しうると考えられる。しかし 右賃貸借契約の存続期間を確保するに足りる証拠はないから、収益価格の算定にあたつては、一応無限年限にわたつてこれを継続しうると仮定すべく、また、年金の現価を求めるにあたり、その資本利子の利率を年六分(商事法定利率)として、本件担保の目的物の収益価格を求めれば、次のとおり二億五、四九一万〇、五三〇円となる。
1,529万4,693円(減価償却後の年間利益)×16.6666(年六分の資本利子を控除した無限年限の年金現価係数、その算定方法は別紙計算式のとおりである)
(2) 取引事例比較法による試算価格
<証拠>によれば、本件担保契約に先立つ昭和四三年五月一四日更生会社と被告との間で赤倉スキー場のリフト設備、ヒユツテ等の売買契約が締結されたことが認められる。右売買契約と本件担保契約とを比較すると、取引の主たる目的物はリフト設備とその敷地の賃借権であること、時期的にも一年の間隔しかないことが認められ、さらに赤倉の物件が他の同種物件に比して著しく高い価格あるいは低廉な価格で取引されたことを認めるに足りる証拠はないから、右物件は本件担保の目的物の比準価格算定のための取引事例として適切なものということができる。
そこで右各物件を比較してみるに、<証拠>によれば、赤倉スキー場のリフト設備の右売買契約時における評価額は二、七九六万円であり、本件リフトの担保契約時における評価額は五、四六八万一、〇〇〇円であることが認められる。従つて、赤倉のリフト設備の価格を一〇〇とした場合、本件リフト設備の価格の指数は195.5となる。
また両者の営業利益を比較してみるのに、<証拠>によれば、昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの一年間における赤倉スキー場のリフトの減価償却後の営業利益は八九〇万八、二九六円であることが認められ、前記(1)認定の事実によれば本件担保契約当時における本件リフトの減価償却後の営業利益は一、五二九万四、六九三円であるから、赤倉スキー場のリフトの営業利益を一〇〇とした場合、本件リフトの営業利益の指数は171.6となる。
そして、リフト設備及びその敷地の賃借権の取引においては、価格決定の主たる要因は、リフト設備の価格とリフトによる営業収益の多寡であると考えられるから、赤倉のリフト設備及びその敷地の賃借権の取引価格に対する本件担保物件の取引価格の指数は、右各指数の平均値である183.5と認めるのが相当である。
ところで、<証拠>によれば、赤倉の物件の売買価格は一億三、〇〇〇万円であるが、右価格は本件担保契約より一年前の取引価格であり、また右物件中には、リフト設備とその敷地の賃借権の他にヒユツテ二棟が含まれているから、これを本件担保の目的物の比準価格算定のための資料とするためには、時点修正及び物件の範囲の相違による価格修正を行わなければならない。しかし、両取引の時期的ずれは一年であり、また<証拠>によれば、被告は右ヒユツテ二棟を営業のために使用していないことが認められるから、右各修正率は特に大きなものではないと考えられ、しかも本件においては、右各修正による効果は互いに相殺し合うものであるから(即ち、時点修正は本件担保の目的物の価格を上昇させる要因として、物件の範囲の相違による価格修正はこれを下降させる要因としてはたらく。)、これを無視したとしても、比準価格に特に大きな差異を与えるものとは考えられない。そこで、本件担保契約時における赤倉のリフト設備及びその敷地の取引価格を一億三、〇〇〇万円であると考え、これにもとづいて本件担保の目的物の比準価格を求めれば、次のとおり二億三、八五五万円となる。
1億3,000万円(赤倉のリフト設備とその敷地賃借権の価格)×1.835(右物件に対する本件担保の目的物の価格の指数)
右(1)及び(2)の試算価格を総合して考えるのに、右収益価格は本件リフトの敷地を無限年限にわたつて使用収益しうると仮定して求められたものであるが、右敷地は借地であるからこれを無限年限にわたつて使用することはできず、従つて本件リフト及び賃借権の正常取引価額は右収益価格をいくぶん下回ると考えられる。一方比準価格についてみると、右価格は時点修正及び物件の範囲の相違による価格修正を経ることなく求められたものであるが、これによる誤差は前記のとおり、左程大きくないものと考えられ、また右比準価格は収益価格を約六パーセント下回つていることを考えれば、本件リフト及び賃借権の担保契約当時の正常取引価額は、右比準価格すなわち二億三、八五五万円程度であると認めるのが相当である。
そして、前記のとおり、本件担保契約における被担保債権の弁済期日までの元利合計は二億円であるから、本件リフト及び賃借権の正常取引価額はこれを19.2パーセント上回つていることになる。
ところで、右認定の価額を前提として本件担保契約の性質類型を判断するにあたつては、更に立入つた考察が必要である。一般に資金調達の必要から自己の財産を売却処分する場合、右処分価格は処分の難易、処分者の資金調達の必要度等に強く影響され、特に物件が処分しにくいものであるにもかかわらず、これを売却して早急に資金を得る必要があるときどなには、その処分価格は取引価格として相当な額を下回るのが通例である。そして、自己の財産を売却処分する方法によつて資金を調達した者に比して、自己の財産を譲渡担保に供して資金を調達した者を特に手厚く保護すべき理由はないというべきであるから、譲渡担保契約において 被担保債権の元利合計と担保物件の価格が合理的均衡を保つているか否かを判断するにあたつては、その正常取引価額のみならず、右物件の処分の難易、債務者の資金調達の必要度等の諸般の事情を合わせ考慮することが必要である。
これを本件についてみるのに、前記(三)認定の事実に、<証拠>を総合すると、更生会社は昭和四四年当時ホテル建築残代金の支払や市中金融業者からの高利の借入金の支払に追われていたが、一般取引業界の金融事情の逼迫に加えて、同会社の経営状態の悪化により、金融機関からの借入が期待できなくなつたため、同会社代表取締役岩倉は資金の調達に苦慮した末、同年五月被告にし対て融資を申入れたこと、これに対し、予てからリフト事業拡張の意向をもつていた被告は、岩原スキー場のリフト設備の買取方を申入れ、種々折衝した後本件担保契約が成立したこと、被告は右契約にもとづき二億円を日歩二銭八厘ないし九厘(年約一〇パーセント)の利息をとつて貸付けたが、右貸付のための資金は銀行から利息日歩二銭(年7.3パーセント)の約で特に借入れたものであつたため、被告としては右貸付により年三パーセント程度の利ざやを稼ぎうるにすぎなかつたこと、本件リフト設備の譲渡を受けて索道事業を営むためには陸運局の許可が必要であり、本件担保契約においては右許可を得られないことが解除条件とされていたため、弁済期日の経過により被告が本件リフト及び貸借権を取得しても、右許可が得られないときは、右解除条件の成就によつて被告は債権の担保を失うことになるが、被告はこのような危険を承知のうえ、本件担保契約を締結したこと、本件リフト及び賃借権の譲渡を受けてリフト事業を営むためには、陸運局の許可を必要とするほか、リフト敷地の賃貸人である湯沢町等の承諾を得ることが必要であるなど種々の制約があるため、本件担保物件の譲受人の資格はかなり厳しく限定されており、その譲渡には困難を伴うことが認められ、他に右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。上記認定の、本件担保の目的物の処分の困難さ、更生会社における資金調達の必要性等からすると、右目的物の正常取引価額が右認定のとおり被担保債権の弁済期日までの元利合計を19.2パーセント上回るとしても、両者はなお合理的均衡を失していないものと判断するのが相当である。そしてこのことに、右認定の、本件担保契約によつて生ずる更生会社と被告との利害得失を合せ考えれば、本件担保契約はいわゆる流担保型のものであり、弁済期日の経過とともに、被告において本件担保の目的物を確定的に取得する趣旨であつたと解するのが相当である。もつとも<証拠>によれば、当初の契約においては 更生会社が湯沢町から賃借権譲渡の承諾を得た後貸付がなされる約であつたが、即日右承諾のないまま貸付がなされたため、同町が右承諾を拒絶することにより本件担保の目的物の担保価値が著しく減少する危険が生じたこと、そこで被告は更生会社に対し、右担保価値の減少にそなえて予備的に担保を提供することを求め、昭和四四年六月二二日同会社との間で 横須賀市所在の同会社所有地につき右貸金のうち二、〇〇〇万円を被担保債権として、低当権を設定し、かつ、代物弁済の予約をしたことを認めることができる。このように、更生会社所有地についての低当権の設定等は本件担保契約締結後新たに生じた担保価値が著しく減少する危険が増大したことに備えて、被告が更生会社に対し更に担保を追加させた趣旨のものであるから、右認定の事実は、前記認定判断を左右するものとはいえない。
他に本件には、叙上の認定判断を覆すべき事情を認むべき的確な証拠はない。再抗弁(六)は、理由がない。
7 同(七)について。
前記6認定の事実によれば、本件担保契約においては担保の目的物の価額と被担保債権の元利合額とは未だ合理的均衡を失していないものというべきであるから、右契約が原告主張のように更生債権者、更生担保権者または更生会社の株主を害するものということはできない。従つて、この再抗弁は更に立入つて判断するまでもなく理由がない。
8 同(八)について。
更生会社が本件担保契約締結時に被告に対し、本件リフト及びその敷地である本件(一)、(二)の土地を占有改定の方法により引渡したことは前記(二)認定のとおりであるから、被告はこれによつて本件(一)、(二)の土地の賃借権の取得については暫く措き(この点については後記第二の二において認定判断する)、リフトの所有権の取得については対抗要件を具備したものというべきである。原告は、譲渡担保の目的物につき占有改定による引渡がなされたとしても、弁済期の経過により右物件の所有権が確定的に帰属した後においては、担保権はさらに現実の引渡を受けるまでは、所有権の取得を第三者に対抗しえない旨主張するが、右は独自の見解であつて当裁判所の到底左袒し得ないところである。従つて、この再抗弁は少くとも本件リフトに関する限り、更に事実上の判断を加えるまでもなく理由がない。
9 同(九)について。
原告のこの主張は、被告が昭和四五年七月二一日本件リフトの引渡を受け、これによつて初めてその所有権取得の対抗要件を具備したことを前提とするものであるが、右事実の認められないことは前記8認定のとおりであるから、この再抗弁も理由がない。
(六) 以上認定判断したとおり、本件リフトに関しては原告の再抗弁はすべて理由がないから、更生会社は昭和四五年六月二日の約定弁済期日の経過とともにその所有権を失つたものというべく、これが存在を前提とする原告の請求は更に立入つて判断するまでもなく理由がない。また、被告は、右日の経過とともに更生会社から本件(一)、(二)の土地の賃借権を取得したものの、右取得につき対抗要件を備えていないことは、後記第二の二において認定判断するとおりであるが、一方原告も右賃借権が対抗力を有するものであることについて何ら主張、立証をしておらず、しかも、本件に現れたすべての証拠によるもこれを認めるに足りないから 結局原告は被告に対し本件(一)、(二)の土地の賃借権を主張し、かつ、妨害の排除を請求する由ないものというほかなく、原告の賃借権に基づく請求もまた既にこの点において理由がないものである。
三占有権にもとづく請求について。
(一) 更生会社が昭和四四年六月三日被告に対し、本件(一)及び(二)の土地と本件リフトを占有改定により引渡し、爾後被告からその無償使用を許容されて被告の占有代理人としてこれを占有していたことは当事者間に争いがない。
(二) ところで、被告は、昭和四五年七月二一日更生会社から右各物件の現実の引渡を受けたので、更生会社は同日限りこれに対する占有権を喪失したと抗争するので、この点について判断する。
<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 被告代表者小山豊治は、昭和四五年六月二日の経過とともに本件リフトの所有権とその敷地の賃借権が確定的に被告に帰属したので、同年七月四日被告会社索道部長小林一三に対し、更生会社から右各物件の現実の引渡を受けるよう命じた。そこで小林は同月一八日更生会社代表取締役岩倉を訪ね、右各物件の引渡を求めたところ、岩倉は小林に対し、同月二一日更生会社経理部の小川俊行課長を現地に派遣して、引渡を実行することを約した。
2 そして同月二一日、更生会社からは小川課長ほか従業員数名、被告会社からは小山社長、小林部長ほか従業員数名がそろつて現地に赴き、午後一時ころから二時間余りかけて、被告側で予め用意してきた標示板(新聞紙半頁大のベニヤ板に「本リフトは当社((被告のこと))の所有でありますから何人も無断で立入又は繰作することを禁止します」と表示したもの)を第八リフトの降り口付近を除く本件リフトの全鉄塔並びにリフト運転室外壁合計五一箇所に取付け、これによつて本件リフト及びその敷地が被告の排他的管理のもとにおかれたことを表示した。
3 被告は同日以降本件リフト及びその敷地を直接管理することになつたが、右リフト事業の譲渡につき陸運局の許可を得ていなかつたので、同月二八日新潟陸運局に対し右譲渡許可申請書を提出するとともに、石打スキー場の被告会社監視員に命じて、数日おきに本件リフト及びその敷地の見回りをさせた。そこで右監視員は見回りを実施していたところ、同月末ころ右物件が原告の管理に属する旨の立札を発見したので、同年八月初旬以降毎日見回りを実施して、その管理につとめた。
4 更生会社では本件リフトの整備を例年九月中旬までに完了しており、昭和四五年当時も七月一五日までの間ほとんど毎日その整備、管理のための作業をしていたが、同月一六日以降八月二〇日までの間は、八月一〇日に第三リフトの原動運転室の塗装をしたほかは、何ら整備、管理のための作業をしていない。しかもその間、本件リフトの整備、管理作業が不要であつたとする特段の事情は何もない。
このように認められ、<証拠判断省略>。
右認定の事実によれば、更生会社は昭和四五年七月二一日被告に対し、本件リフトとその敷地である本件(一)及び(二)の土地の現実の引渡をなし、もつて右各物件の占有を喪失したものというべきである。よつて、原告の占有権にもとづく請求も理由がない。
第二反訴について。
一占有権にもとづく請求について。
(一) 被告が昭和四四年六月三日更生会社から占有改定により本件リフトと本件(一)及び(二)の土地の引渡を受け、さらに昭和四五年七月二一日同会社から右各物件につき現実の引渡を受け、その占有を継続していたことは、前認定のとおりである。
(二) 昭和四五年七月二五日更生会社に対し、会社更生法にもとづく更生手続開始の申立がなされ、同月二八日原告が保全管理人に選任されたこと、同年九月二四日更生会社に対し更生開始決定がなされ、原告が管財人に選任されたこと、原告が同年一〇月一四日被告に対し、本件リフトと本件(一)及び(二)の土地の占有妨害の排除と右各物件内への立入禁止を命ずる仮処分決定を得て、翌一五日その執行をなしたことは当事者間に争いがなく、右事実に前記第一、三、(二)認定の事実及び<証拠>を総合すると、原告は保全管理人に選任された後の昭和四五年七月二九日弁護士である訴外田村護を自己の代理人として岩原スキー場に派遣したが、田村は更生会社従業員に対して本件リフトとその敷地が原告の管理のもとにおかれた旨説示し、右敷地内にその旨の立札を立てたこと、更生会社従業員は原告の指示により、同年八月下旬以降本件リフトの整備、運転作業を開始したこと、被告従業員は同月上旬以降毎日右リフトを見回りに来ていたが、更生会社従業員がこれを整備、運転しはじめたことを知り、同年九月一六日小林一三ほか数名が本件第一ないし第三リフトの運転室、従業員詰所に泊り込んで、更生会社による右整備、運転を阻んだこと、そこで原告は同年一〇月一四日被告による右妨害の排除と本件リフトと本件(一)及び(二)の土地内への立入禁止を命ずる仮処分決定を得て、翌一五日右執行をなし、被告の占有を排除して、その機会に右各物件に対する自己の占有を確保し、爾後これを利用してリフト事業を営んでいることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
右認定の事実によれば、原告は昭和四五年八月下旬以降同年一〇月一四日までの間に、本件リフトと本件(一)及び(二)の土地につき被告が有していた占有を奪取したものというべきであるから、右の土地及びリフトの占有権にもとづき、原告に対し、本件(一)及び(二)の土地並びに本件リフトからの退去と、右各物件の引渡を求める被告の反訴請求は、理由がある。
二賃借権及び所有権の確認請求について。
被告が昭和四五年六月二日の経過とともに、更生会社から本件(一)及び(二)の土地の賃借権と本件リフトの所有権を確定的に取得したことは、前記第一の一に認定判断したとおりであり、同年九月二四日更生会社に対し、更生手続開始決定がなされ、原告が管財人に選任されたことは、前記一の(二)認定のとおりである。
ところで、更生会社の管財人は、更生会社との関係では、公的受託者として第三者的地位に立つものであるから、更生手続開始前に更生会社から権利を取得した者が管財人に対し、右権利取得を主張するためには、対抗要件を具備していることが必要であると解すべきである。ところで、被告が本件リフトの所有権の取得につき対抗要件を備えていることは、前記第一、一、(五)8に認定判断したところから明らかであるが、本件に現れたすべての資料によるも、被告が本件(一)、(二)の土地の賃借権の取得について対抗要件を備えたことはこれを認めることはできない。なるほど、被告が更生会社から右土地の引渡をうけこれを占有していることは既に認定したとおりであるが、被告が単に本件土地について占有を取得しただけで右貸借権の取得について対抗要件を具備したことになるものでないことはいうまでもなく、他に被告が民法六〇五条ないしこれにかわるべき対抗要件を具備したことはその主張立証しないところである。
従つて、原告の抗弁(即ち、本訴についての再抗弁(八))は右の限度で理由があるものというべく、被告の前記反訴請求のうち本件リフトの所有権の確認を求める部分に理由があるが、本件(一)、(二)の土地の賃借権の確認を求める部分は理由がない。
第三以上のとおり、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求は、原告に対し本件(一)及び(二)の土地の明渡と本件リフトの引渡を求め、かつ、本件リフトにつき被告が所有権を有することの確認を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(川上泉 富田郁郎 園尾隆司)
物件目録、図面<省略>